テロをはじめ不確実性がます中、イベントの計画者や意思決定の責任者は苦渋の決断を迫られることがあります。ニースのテロ事件以降、数々のイベント中止が発表されてきたフランスでは、イベントオーガナイザーたちがイベントの開催と中止の間で揺れ動いています。そんな彼らの意思決定の動きをお伝えします。
●リスクの中でイベントを開催するか?
フランス国鉄SNCFが2・3年前から準備をしていたイベントを開催しています。
それは、Before I die...キャンペーンです。
以前ブログでも一度フランスでのイベントの模様をご紹介しましたが(『"Avant de mourir, je voudrais..." (Before I die, I want to ...)のイベント』)、
「死ぬ前にやりたいこと」を大きな黒板にみんなで書き込むのです。
これはもともと2011年にアメリカで始まったキャンペーンでした。
アメリカ人アーティストChandy Changが身近な人を交通事故で亡くし、そのショックから始めたのです。
これまでに、すでに70か国で1000以上の黒板が設置されてきました。
日本では、2013年に愛知県安城市で看護師さんたちのイニシアティブで開催されました。
現在、パリのリヨン駅に大きな黒板が設置され、自由に書き込めるようになっています。
しかし、国鉄のイベントは、純粋に大成功とは言えないようです。
問題は、タイミングでした。
今フランスではまさにテロによって一般市民が巻き込まれる事件が多発し、死が身近なものとなっています。人が集まる駅の構内などは、特にテロの標的となりやすいため、一層複雑な感情を刺激するといえます。
実際、今でもフランス国内は常に厳戒態勢にあり、いつテロが再び起きるかもわかりません。
もし、このキャンペーン中や後にテロが起こったら・・・
こうした流れの中、フランス国鉄の「Before I die...」のイベントは、非常に微妙な問いを提示するイベントなってしまいました。
ですが、おおむね一般の人々は楽しんで書き込んでいるようです。
その書き込みの中には、「長旅をしたい」、「日本に行きたい」、「子どもが欲しい」などがありました。
●イベント開催とタイミング
フランス国鉄はこのイベントを数年前から計画していたわけであり、フランスでもいくつかの場所で開催されたこのキャンペーンは成功してきました。
ですので、まさにタイミングの問題です。
数年前は、フランス国内でのテロという事態はここまで深刻化していなかったのですから。
担当者はイベント実行についてこう言っています。
「わたしたちはこのプロジェクトを2・3年前から準備してきました、そしてそれはもちろんテロ攻撃の前であったわけです。テロとイベントの間には何の関係もありません。最終的な中止も検討しましたが、しかし人生は続いていくのであり、人々は自分を表現することを必要としています。そして、この世界にちょっとは希望を与えなければ、と考えました。」
●「苦渋の決断だった」-リール市長のイベント中止決定までの経緯
テロが続いたフランスでは、今年の夏は、いくつものイベントが中止になっています。
例えば、野外で大きなスクリーンで観る映画鑑賞会のイベントはほとんど中止になりました。
また、9月3日・4日で開催予定であったリールの大規模な蚤の市"La braderie de Lille"も中止が決定されました。
このイベントは、なんと起源は少なくとも12世紀ごろまで遡る蚤の市(最初に文面上でこの蚤の市の記録が残っているのは1127年です)で、第二次世界大戦後からは毎年続いてきた歴史あるイベントです。
毎年、200万以上が集めるリールで最も大きなイベントです。
この中止を決定したリール市の市長で社会党の大物政治家Martine Aubryは、“道徳上の責任の問題”としてイベント中止を発表しました。
「わたしたちは本当に蚤の市を続けたかった、しかしわたしたちには減らすことのできない危険がある。」
一方で、この市長の中止決定を批判している人も出ています。
なぜならば、イベント中止による経済的打撃が目に見えてるからです。
この蚤の市では、1万店舗の屋台が100キロ連なります。
イベント前後の3日間は、周辺のホテルは満室になり、カフェやレストランは一年の売り上げの10~30%をこのイベント開催中に稼ぐと言います。
批判者の一人ホテル業界会長のThierry Grégoireは、
「彼女(市長のMartine Aubry)は各業界との話し合いもなく決定した。これは経済的な観点、そして発信されたイメージの観点から、痛烈な打撃である。」
リール市長のMartine Aubryは、こう説明しています。
「わたしはニースのテロ事件の直後には、県令にリールの蚤の市は中止すべきではないと伝えました。そして、セキュリティーの問題を深刻に検討しました。必要であると思われるものはすべて得ることができました。15連隊の機動隊、それはリールの町では今まで見たことがないものです。しかし、7月31日以来、わたしは考え続けました。ほかにリスクはないのか。そして中心の2つの大通りのセキュリティーをいかに確保するかを考え続けました。もしも、会場で誰かが急に大鉈や銃を持ち出したらどうなるか。わたしには、解決策が見つけられませんでした。街に出て、リールの住民たちに会って話し合いました。そこで、多くの人々の心配や恐怖をひしひしと感じたのです。議員たちとも話し合い、どうするか議論しました。そして、8月2日に県令にそれまでの議論や考えをまとめて話しました。その時に、もう一日待って最終決断を下そうではないか、と決めました。同時に内務大臣にもコンタクトを取り話し合った結果、わたしに決定権を与えてくれました。この蚤の市はリールの市がオーガナイズするものですから、最終的な決定権はリールのトップであるわたしにあり、わたしが否が応でも決定を下さなければなりません。それがどんなに苦痛なものであろうとも。」
「この決定を下すのに、わたしは眠れない夜を過ごしました。苦渋の決断でした。」
リールはもともと炭鉱の町として栄え、炭鉱が廃れてからはさびれた町となっていました。
最近では少しずつ景気回復の動きも見えたのですが、それでも失業率は、フランス国内でもかなり高いと言えます。
この毎年の蚤の市は、そんなリールを活性化し、人々を勇気づけ、町全体がにぎやかになる、まさに地方創生のイベントでもあり続けてきたのです。
ゆえに、このイベント中止をきっかけに、経済的打撃が実際のさらなる失業率増加につながる可能性も否定しきれず、住民の不満噴出につながりません。Martine Aubryの中止の決意がいかほどのものか、想像がつくと思います。
●イベントオーガナイザーと"戦略的不確実性"
みなさんがオーガナイザーや経営者、あるいは意思決定の責任者ならば、どうするでしょうか?
何を理由に中止し、あるいはどんな理由で計画遂行を決定するでしょうか?
もちろん、参加者の予測される危険について考慮し、対策を練る責任と義務がオーガナイザーにはあります。
しかしながら、一つのイベントはある程度成長して大きくなると、複数のファクターが絡み合い、経済や観光や地域の問題と切り離せなくなります。ある側面だけ考えていれば済む話ではなくなり、計画者は総合的に判断する力がなくてはなりません。
何より、経済や地域活性化の影響といった大きな問題だけでなく、人間的な問題が計画者を悩ませるでしょう。
計画者は計画開催までに頑張っているスタッフや、期待を寄せる人々の想い、自分自身の“絶対成功させたい”といった強い気持ち、こうした"願い"や”想い”や”期待”を日々受け止めながら、開催日に向かっていきます。
この中で、”やりたい”という気持ちばかりに動かされるのでもなく、またリスクへの恐怖や責任逃れでもなく、状況を冷静に判断した上で、中止を決定しなければならない時もあります。まさに、断腸の思いとしか言いようがないでしょう。
今、フランスのイベントの計画者や経営者たちは、まさに、マイケル・レイナーの“戦略的不確実性”をじりじりと考えさせられる状況にいます。
戦略的不確実性とは、自分が関係する業界の未来に関わる不確実性、つまり未来は未定、人間の予測は当たらない―を前提とし、計画者は何らかの形で計画の過程そのものにこの不確実性を組み入れるべき、という概念です。
これは、もともと米シンクタンク・ランド研究所のハーマン・カーンが冷戦に備えて考え出した戦略であるシナリオ・プランニングを経営理論に適応した概念です。
平常時でも、イベントにハプニングはつきものであると言えます。
また他のビジネス以上に社会を巻き込む性質があるために、一つの出来事が複数の分野に波紋を広げることもあります。
テロをはじめ、これからますます予想だにしなかった事態が発生する社会では、予測不可能性はますます高まります。
そうした意味で冷戦の際に考えだされたシナリオ・プランニングから誕生した戦略的不確実性は、登場時から現在まではあまり多くは企業で採用されてきませんでしたが、イベントオーガナイザーや経営者は知識と心構えして頭に入れておく必要が出てきていると言えるでしょう。
日本でも、4年後のオリンピックが控えています。
また、それまでのオリンピアードの期間に、多くのイベントが開催されるでしょう。
ISの攻撃に直接的に加担するような事態となれば、日本でもテロが起こる可能性は十分に考えられます。
そうした時、イベントオーガナイザーはどういった行動をとるか。
戦略的不確実性を視野に入れて不測の事態に備え、リスクマネジメントを考えること、イベントを計画通り開催するのであれば予想外・想定外の事態に対処するための能力を組織全体に備えること、そして、総合的に見て中止しなければならないと結論したならば、どんな非難が集まろうと計画者が自らの責任において中止を速やかに伝え利害調整に移る必要があります。
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