貧困問題とその対策:フランスの事例から


昨日10月17日は、国連が制定した「貧困撲滅のための国際デー」でした。

日本でも深刻な社会問題として浮上している貧困問題。

同じように、国内の貧富の格差を抱え、一般の人々の貧困問題への偏見、その偏見に対する対策を進めるフランスの事例をご紹介します。


●フランスの貧困問題

フランスでは不況が続き、貧困問題が深刻化しています。

これからの寒さ厳しい季節に命を落とすホームレスの貧しい人々はもちろん、棲む場所はかろうじてあるものの、劣悪な環境に暮らす貧困者、つまり見えない貧困を抱える人々は、ホームレスに比べてかなりの数いると言われ、そうした人々への支援が急がれています。

メディアなどで取り上げられやすいホームレスに比べ、後者の貧しい人々の実態は見えにくいという現状が、日本同様フランスにもあります。


フランスで最も強力に貧困問題に取り組む組織の一つに、ATD Quatre-MondeというNPOがあります。(ATDの意味は、"Aide à Toute Détresse [全ての困窮悲嘆の救済]"と、 "Agir Tous pour la Dignité [尊厳のためのみんなのアクション]"の二つの意味があります。)

1957年にレンスキー神父によって、ピエール神父の施設内で創設されたNPOで、ド・ゴール将軍の姪でありレジスタンスの闘士Geneviève de Gaulle Anthoniozが会長を務めていたことでも有名な組織です。


彼らは、貧しい人々への支援を展開すると同時に、一般の人々に対する教育活動に力を入れています。


●貧困を構造化する偏見

ATD Quatre-Mondeと活動を共にする社会学者Jean-Christophe Sarrotによれば、貧困と貧しい人々に対する誤った考え方や偏見がフランスにはあるということです。

例えば、

・貧しい人々は、働く場所があるのに自分で探そうとしない

・貧しい人々が貧しくなるのは自己責任だ

・生活保護受給者は、最低賃金で働いている人々よりも楽に多くの収入を得ている

といったものです。

日本の貧困問題を論じる際にも、必ず出てくる意見です。


ATD Quatre-Mondeと社会学者Jean-Christophe Sarrotによれば、フランスではこれらは全て偏見であるということが調査結果から明らかになっています。

こうした偏見を抱く人々は、貧しい人々と実際の交流をしたことがない人が多いということです。

では何から偏見を抱くようになるかというと、①噂話や雑談、②政治家の演説から最も影響を受けるという結果が出ました。

人間は一般的に、ポジティブな意見よりもネガティブな意見に影響を受けやすく、そうして頭に残った歪んだ見方で他の場面でも現実を見ようとしてしまいます。


こうしてなされる一般の人々による偏見や固定観念、そしてそこから示される態度やまなざしが、貧しい人々の自信を奪い、社会から追い出し、排除する力となると考えられます。

こうして構造化される貧困、そして貧困に苦しむ貧しい人々に対し、「自己責任」で放置することをわたしたちはしていると言えます。


●貧しい人々への偏見を修正するために

何よりも大切なことは、自分の住んでいる世界から一歩踏み出て、違う層の人々と交流し、同じ人間同士として実際のコミュニケーションをとることです。

わたしたちは、自分の見ている世界が世界だと思い込みがちですが、自分の見えている世界は世界の断片でしかありません。実際の交流をすることにより、自分が見ていた世界のその断片で、相手を糾弾していたという気づきが、必ずあるはずです。

なぜならば、貧しい人々が何に困っていて、何が問題なのか、なぜ動き出し抜け出すことができないのかは、一般の生活を送っている側からはとても見えにくくなっています。

そんな例は、近年ますます発展している行動経済学が扱う貧困問題の本でも、様々な誤解や偏見が紹介されていますから、実際にコミュニケーションをとる勇気がない人は、まずは読んでみることをお勧めします。


ATD Quatre-Mondeは、貧困への偏見に対応するため、新しいシステムを開発しました。

その名も、@ZorroCliches(偏見ゾロ)です。



怪傑ゾロからとった名前で、貧しい人々に対する偏見が書かれたTweetに対し、ATD Quatre-Mondeが入力した貧困への誤った認識や偏見が生み出す単語を検出すると、自動的にそれは偏見であると返信する機能になっています。同時に、そうした意見が偏見であることを示す根拠となるデータを閲覧できるURLが貼られるということです。


また、ボルドー大学の音楽教授が中心となり、市民が自主的にホームレスの貧しい人々に夜寝る場所を提供できるアプリを開発しました。

Besoin d'un toiです。


これは、Uberのように、市民が自分の意思でボランティアをすることができるよう、市民とホームレスをつなぐアプリとして開発されています。


こうして新しい技術を使って、従来からある貧困問題に取り組もうとしている人々がフランスでは出てきています。


ヴィクトル・ユゴーは、有名な『レ・ミゼラブル』の序文で次のように書いています。

「法律と風習とによって、ある永劫の社会的処罰が存在し、かくして人為的に地獄を文明のさなかにこしらえ、聖なる運命を世間的因果によって紛糾さしむる間は、すなわち、下層階級による男の失墜、飢餓による女の堕落、暗黒による子供の萎縮、それら時代の三つの問題が解決せられない間は、すなわち、ある方面において、社会的窒息が可能である間は、すなわち、言葉を換えて言えば、そしてなおいっそう広い見地よりすれば、地上に無知と悲惨とがある間は、本書のごとき性質の書物も、おそらく無益ではないであろう。」


1862年1月1日に書かれた序文です。

それから約150年後の今、きっとユゴーが見ていた無知と悲惨とそう変わらない状況がわたしたちの社会にあると言えるでしょう。


遅い歩みでも、良い方向に向かって歩いていけるよう、共に努力してまいりましょう。




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