外国人と日本文化について話しをしていて、俳句の話になりました。相手は、「俳句は日本の詩だと聞いたことがあるけれども、よく知らない。俳句の魅力を教えてほしい。」とあなたに言いました。あなたなら、どんな説明で相手に俳句の魅力を伝えますか?
こんなシチュエーションになった時に、自分なりに説明できますか?
自信がない、何を言っていいかさっぱりわからない、という人は、準備をしていきましょう!
*今から書く手順も内容も唯一の正解というわけではもちろんありません。必ずご自身で紙と鉛筆を用意して、自分なりの回答を考えてみてください。その際に、これから書く内容を参考やたたき台にして、ブラッシュアップしてみてください。
********************************************
【アドバイス】
・まずは、上のシチュエーションを想像して、自分なら何を伝えたいか、日本語で紙に書き出してみてください。俳句の魅力を伝えるのに、俳句について知らないことがあれば、調べてみてください。その際に、最初から外国語で文章にするのではなく、しっかりと日本語で伝えたい内容を書き出した上で、外国語で表現してみましょう。
・次の2点を心がけて日本語を作りましょう:
①相手がわかりやすいように、要点をかいつまんだ説明をする。
②俳句について体系的な説明をする訓練であることを心がけ、文章を作る。
******************************************
1.何を伝えるか、テーマを書き出す。
俳句の魅力は?という質問は漠然としたもので、この問いに対する回答は、幾通りもあります。
俳句に限らず、日本文化についてのこうした漠然とした問いが来た時に、大切なことは、相手に完璧な正しい知識を伝えようとすることよりも、自分は何を伝えたいか、をまず考えることです。つまり、自分が見ている日本文化、面白いと思う点、世界の見方・考え方を伝えようと意識してみてください。
もちろん、間違った知識を伝えるのがいいということではないのですが、相手は客観的に正しい知識を得ることよりも、あなたの見方や考えを知ることを望んでいます。そうした見方や考え方を知ることができるコミュニケーションを通して、能力や人格や教養や共通点を互いに知り、異なるバックグランドの者同士が信頼や信用を築いていけるようになるのです。
まずは、俳句について自分が何を伝えたいか、幾つかのトピックを選びましょう。その後、体系的に説明するためにわかりやすいのはどういった順になるかを考え、トピックを並べて書き出してみましょう。
ここではケーススタディとして、以下を一通り伝えられるようになることを目標とします。
①俳句とは何かをわかりやすく説明する
②俳句の普遍的な価値を伝える
③自分の好きな俳人と俳句を紹介する
2.それぞれのトピックで文章にまとめてみる。
トピックを選んで並べたら、それぞれのトピックで文章を作ってみましょう。
①俳句とは何かをわかりやすく説明する
まずは、俳句とは何かを説明します。つまり、自分がこれから話す俳句の定義を相手に明確に示します。
いきなり文章にするのが難しいと感じる人は、調べたものの中から面白いと感じるキーワードを書き出してみると、取り組みやすいと思います。
キーワード:【五・七・五】【世界で最も短い詩】【松尾芭蕉が源流】【正岡子規が確立】【自然と一瞬】
「俳句とは、5・7・5の17シラブルのみの、世界で最も短い詩と言われる日本の詩です。日本人なら誰もが知っている日本の心の芸術とも言えます。
15世紀初頭頃に、俳句の前身である俳諧が発生したと言われており、俳諧は17世紀に一気に花開きました。その時代に登場した有名な俳諧師・松尾芭蕉が源流となり、19世紀の終わりに正岡子規という文芸人が俳句を確立したと言われています。ただし、俳諧も俳句も合わせて"俳句”と呼ばれることもあります。俳句のテーマには、自然や一瞬の時を謳うものが多くあります。」
②俳句の普遍的な価値を伝える
キーワード:【心理療法】【禅】【機知即興】【西洋と俳諧/俳句】
俳句をはじめ、日本文化の魅力を理解してもらうためには、その独自性ばかりを強調するのではなく、相手との関連性や相手にとっての問題や関心にも関連する内容を伝えること、つまり普遍性を強調することも大切です。
例えば、人生の問いに関連させてみましょう。
「わたしたちは誰でも、自分というものに執着し、囚われてしまいます。日本で発達した禅は、自分自身から解き放たれていくことを目指した仏教の一派ですが、この禅のお坊さんは俳句を多く遺しているのです。俳句はとても短い詩のため、散文的な表現をしようとすると失敗します。俳人は、普段の言葉に頼らず、いかに無駄を省いて、分節を省いて、本質を表現できるかに苦労します。禅では、言葉が作る分節の世界にこそ人間の苦悩が生まれると考えており、禅の修行はそれ以前の世界に戻ろうとする試みです。言語に頼らず本質をつかもうとする点において、俳句と禅には共通点があると言えます。ですから、徹底的な論理的思考を鍛えた西洋の人にも、俳句をお勧めいたします。」
また、誰もが関心を抱く健康や心の問題に関連させると興味を引き出せます。
「実際に、アメリカの心理療法士には、俳句を心理療法に応用している人がいます。彼は、言語的思考ではなく、直観に関連させる実践を俳句を通してすることで、患者が囚われている怒りや悲しみや恐れといったネガティブな感情から解放させることができると説明しています。」
有名な説との関連を紹介することもありです。
「俳句の最も大事なエスプリは、機知即興だと言われています。『ホモ・ルーデンス』で有名なヨハン・ホイジンガが、詩は遊びとともに始まるという自らの説を裏付けるために、俳諧の松尾芭蕉の詩を引用しているのですよ。西洋の人はユーモアがお上手ですから、俳句の創作も得意かもしれませんね。」
普遍的な価値、といっても、人類のすべてに当てはまる価値ばかりでなく、話す相手の国と関連づけた価値や共通点を伝えるのもいいでしょう。
例えば、話す相手がフランス人ならば、
「西洋人による最初の俳諧詩集は、フランス人のPaul-Louis Couchoudと言われていますね。彼の本は1905年にパリで出版されました。比較文学者のWilliam Leonard Schwartzが言うように、西洋人で一番最初に日本の美を発見したのはあなたたちと言えるかもしれませんね!」
③自分の好きな俳人と俳句を紹介する
どんな芸術もそうでしょうが、相手が俳句の魅力を理解するための一番良い方法は、相手自身が好きな俳人や俳句を発見することでしょう。そのためには、まずあなたの好きな俳人を紹介してみましょう。
「最も有名な松尾芭蕉の作品がわたしは好きです。彼の作品を読むと、彼が捉えた景色が色鮮やかによみがえり、彼が感じた風情や感情が伝わります。彼の俳諧は、最も時が凝縮した作品であると感じます。」
日本での会話では、趣味でも芸術でも好きなものは好きと言って終わりになることが多くありますが、外国では「なぜ好きなのか?」をよく聞かれます。はじめは戸惑うこともあると思いますが、なぜ自分は好きだと感じるのか、言葉にする練習をしておきましょう。
好きな俳人の俳句でいくつか暗記しているものがあれば、話している時点の季節に関連する俳句を伝え、日本文化の中で育ったあなたの感性を伝えるのもよいでしょう。
「松尾芭蕉の詩に、"あかあかと日はつれなくも秋の風"というものがあります。"秋の季節になったのに、旅行く自分の上を夏のような夕日が容赦なく照り付ける。しかし、やはり風には秋を感じる”という意味です。日本では、秋の到来を風から感じる文化があり、この詩以外にもその心がよまれています。」
3.外国語にする
こうしてトピックごとにしっかりと日本語で伝えたい内容を書き出したら、それを自分が必要とする外国語に直していきましょう。
会話になると、相手からの質問や、その場での反応によって違う方向へ話も自由に進みますが、上のようにいくつかのテーマで準備して練習しておけば、会食の場や雑談の時にも自信をもって話を楽しめるでしょう。
人間関係の潤滑油となる雑談力を、外国語でも自由に発揮できるようになるためには、面倒臭いようですが、多少の努力が求められます。ある程度の社会的地位の人たちと信頼を築けるようなグローバル人材になるためには、語学力そのものを磨くのはもちろんですが、基本の日本文化について体系的な説明ができるように調べ、準備しておくことが必要です。
俳句は英語やフランス語でも多くの本が出版されており、相手の人も興味を持てば勉強しやすいため、相手の外国人にお薦めするには素晴らしい日本文化だと言えます。
0コメント